私は全農チキンフーズに勤める課長、人呼んで“チキン父さん”。だが、それは仮の姿だ。実の正体は、社長から『やきとりの流儀』を極めるために秘密のミッションを命じられた特命課長なのである。夜な夜な街に出没し、究極のやきとりを求めて彷徨い歩く。
さて、第1回目のミッションの舞台は秋葉原だ。言わずと知れた電気の街、サブカルチャーの発信地。すれちがうメイド喫茶の店員さんに後ろ髪を引かれながら、ご主人様…いや社長が指定した炭火焼の店へと急ぐ。
JR秋葉原駅からほど近い、歩いて4、5分のビルの2階にその店はあった。
「いらっしゃいませ~」。入り口の扉を開くと、店員さんの明るい声が私を出迎えた。今年の4月にオープンしたばかりの国産鶏にこだわった居酒屋だそう。

きれいでおしゃれな内装を横目に「どうぞ、こちらへ」と案内されたのは、な、なんと4人掛けの個室であった。聞けば全席個室だという。中年男が広い個室に一人ぼっちって…!?と、オドオドしていると、社長から調査を指示された「鶏三種炭火焼」がテーブルに届く。銘柄鶏「みちのく清流味わいどり」と「鹿児島いいとこ鶏」のもも、地鶏「さつま若しゃも」のもも、むね、ささみを、炭火で焼き上げた人気メニューだという。こんがりとした焼き色に思わずゴクリと唾を飲む。はやる気持ちを抑えきれずに食してみれば、もちっとした食感のあとに炭火焼独特の芳ばしい香りが口いっぱいに広がった。ジューシーな鶏肉の旨みを引き立てる塩加減も絶妙で実にうまい。リアルに鳥肌が立った。「当店では鶏肉の鮮度とおいしさを保つために、できるだけ調理前にカットしています」と店長さん。なあるほど、どうりでうますぎるわけだ。しかも、このボリュームで1,280円(税抜き)とは、すき間風が吹く私の財布にもうれしいね。


鶏肉の産地に合わせて選んだ鹿児島県産の焼酎とも相性がいい。「ほかにも、“よだれ鶏”と“国産ひな鳥の半身揚げ”など、個性的な鶏料理をたくさん“トリ”そろえています」と店長さん(ズルッ)。こんなに鶏料理のうまい店に潜入させるとは、我が社の社長もお目が高い。「国産鶏が存分に堪能できる秋葉原の新しい名店」と報告しておこう。明るくて笑顔が素敵な店長さんがいることは、内緒だ。ウッシッシッシッ。
そんな、ちゃっかり者のチキン父さん。ほろ酔い気分で千鳥足でも、やはりお店の領収書は忘れない。
これからも、チキン父さんへの特命は続くのだった…。

